もしも……【フレデリック】
〜もしも学園小説のフレデリックが、大海賊のフレデリックと入れ替わったら・・・〜
鏡には長い金髪を肩下まで垂らした蒼い瞳の男が映っている。色白の肌、黄金色の眉は常と変わらず。だが明らかに違う点がいくつかある。
第一に、この場所だ。確か今フレデリックは夕食にフィリップが作ったゴーヤチャンプルーを死ぬほど食わされてトイレで吐き、洗面所でうがいをしようとしていたはずだった(何やってんだ……)。だからここは洗面所のはずだ。いや、確かにここは、洗面所だ。流しに手を突き、向かいあうのは大きな鏡。確かにこの構造は間違いなく洗面所だ。……だが、フレデリックのマンションの鏡はこのように金の枠などついていないし、洗面台だって大理石ではない。蛍光灯の代わりに古めかしいオイルランプなど使っていない。やはり、ここはさっきまでいた場所と違う場所なのだ。
第二に、服装だ。いつもパジャマ代わりに使っているSUM41のライブTシャツを身に着けていたはずが、海色の、何と形容すればいいのか、昔のヨーロッパ貴族が着ていそうな乗馬服のような、軍服のようなものを身につけている。似合っている。かっこいい。だが自分の姿に惚れ惚れしたのもつかの間。すぐにこれは異常事態だと気がつく。
「えっちょ……ちょま……(汗汗汗)」
心臓が激しく胸を打つ。思考がうまくまとまらない。
とりあえず、当初の目的のうがいをしてみた。手近にあったタオルで口元を拭き、もう一度鏡と向かい合う。なんだか違和感がある。服装以前に。そうだ、顔がなんか違う。
「……老けた?」
指の腹で頬に触れて肌の弾力を確認する。確かな跳ね返りがある。フレデリックはほっと息を突いた。
だがほっとしている場合ではない。
「落ち着け、落ち着くんだ俺……。えーっとつまり……俺は兄さんの作った訳わかんないゴーヤチャンプルーみたいなものを食べ過ぎて、気持ち悪くなって、吐いて、洗面所に行って、あ、もうだめだ。わからん(諦)」
周りに誰もいないのをいいことにフレデリックは独り言呟き放題だった。
とにかくここでぼんやりしていても事態は何も変わらない。左手に見える豪奢なマホガニィ色の扉を開ければフィリップがいるかもしれない。そうだ、そうに決まっている。兄さんめ、手の込んだいたずらを……。
フレデリックは勢いよく扉を開けた。
「…………」
目の前には立派なシャンデリア、天蓋のついた大きなベッド、シックな赤の革張りのソファ。足元は毛足の長いクリーム色の絨毯。
「ちょっと待って、待とうよ……(滝汗)」
見慣れぬ光景、というか今までに見たこともない部屋のつくりにフレデリックは青ざめた。フィリップがここまで手の込んだいたずらをするだろうか? いや、無理だ。飽き症のフィリップにこんな細工ができるわけがない。
茫然と立ち尽くすフレデリックだったが、固いノックの音にハッとして顔を上げた。
「フレデリック大尉、いないのですか?」
「……え? この声……」
聞き覚えのある声に、フレデリックは母親を見つけた幼稚園児並みの猛ダッシュで扉に向かった。
この声は……!
「ロックウェル!!」
――ガンッ!
勢いよく開けた扉が外にいた人物に思い切り当たったらしい。破壊的な音に慄き、恐る恐る覗きこめば、そこには、ロックウェルが額を押さえて蹲っていた。
「……いって……」
「あ、ごめん、ロックウェル! 大丈夫?」
フレデリックはロックウェルと同じ目線になるように屈んで、心配げに声をかけた。対してロックウェルは化け物でも見るような眼で見返す。
「ごめん、なんかロックウェルの声聞いて安心しちゃって……勢いで。マジごめん!」
「え? 何ごめんって?(汗)」
「俺、ほんといきなりこんな状況でわけわかんなくて……でもロックウェルがいてホント良かった! ねえ、これどういう状況なの?」
ロックウェルは数十回くらい瞬きをした。そしてもう一度フレデリックを見返した。
「……さあ。何言ってんだかわけわかりませんが、もう打ち合わせの時刻ですよ。夕食後に気分が悪いとか言って部屋に戻ったきりだから、心配してきてやったって言うのに……元気そうで何より。では」
ロックウェルは額をさすりながら立ち上がった。フレデリックはロックウェルの素っ気ない態度が理解できず、茫然と彼を見つめる。
「……そんな風に見られても困るんですが……。っていうか、なんか変ですよ……」
「へ、変!?(ガビーーーン)」
これ以上関わるのはごめんだとでも言うようにそそくさと立ち去ろうとするロックウェルの肩を慌てて掴んだ。
「ちょっと、マジで俺を見捨てようとしてる!? この状況で!?(泣)」
「な、何なんですか……(滝汗)」
「ええーーー! お前が何なんですか!(爆) なんでお前までそんな態度……俺、どうすれば……(涙)」
「さぁ……打ち合わせに行けばいいんじゃないですか……(汗)」
もともとフレデリックに密かな好意を抱いていたロックウェルとしては、自分の肩にもたれて暗いため息を吐くフレデリックに悪い気はしなかったが、明らかにいつもなら取るはずのない行動&言動なので、彼としては対応に困っていた。そこへ救いの手が差し伸べられた。
「どうした、ロックウェル、フレデリック大尉。もう時間だぞ」
「はっ……閣下! 大尉が、大尉がおかしいんですっ(涙目)」
紅いカーペットの向こうから颯爽と現れたエドガーに助けを求めたロックウェルだったが。ロックウェルの肩から顔を上げたフレデリックはふにゃ〜と顔を崩してこうのたまった。
「エ……エドガーせんぱーい!!!(感嘆)」
((な……何イィィーーーーー!!!???・汗汗汗))
続く?……かはわかりません(爆)